【労働基準法】労働者代表者(過半数代表者)の選定方法~相次ぐ無効判決

2019年03月30日

働き方改革

 2019年4月から働き方改革が実施され、時間外労働の上限が設定されたり、年5日以上の有給休暇の取得が義務付けられたりします。企業は、労働者に時間外労働をさせる場合には「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」を締結しなければなりません。36協定を締結する際に、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出し、労働者側の締結当事者とする必要があります。

 また、会社は、常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則を定め、労働者代表者の意見を聞いた上で、労働基準監督署に届け出なければなりません。

 働き方改革の実施に伴い就業規則や36協定を見直す必要が生じ、労働者代表者の「選任方法」がクローズアップされています。特に裁判で労働者代表者の選任方法が無効との判決が相次ぎ、36協定の無効が相次いでいます。

労働者代表者はどのように選任しなければなりませんか。
労働者代表者のことを「過半数代表者」といいますが、過半数代表者となることができる労働者の要件は次のとおりです。
1.労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと
 管理監督者とは、一般的には部長、工場長など、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある人を指します。過半数代表者の選出に当たっては、管理監督者に該当する可能性のある人は避けた方がよいでしょう。
2.36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで、投票、挙手などにより選出すること
選出手続きは、投票、挙手のほかに、労働者の話し合いや持ち回り決議などでも構いませんが、労働者の過半数がその人の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きがとられていることが必要です。また、選出に当たっては、パートやアルバイトなどを含めたすべての労働者が手続きに参加できるようにしましょう。
 会社の代表者が特定の労働者を指名するなど、使用者の意向によって過半数代表者が選出された場合、その36協定は無効です。社員親睦会の幹事などを自動的に過半数代表者にした場合、その人は36協定を締結するために選出されたわけではありませんので、協定は無効です。
労働者の中から推薦、挙手で労働者代表者になろうという人がいません。会社から労働者代表者を指定してもいいのでしょうか。
 過半数代表者は、投票、挙手などにより民主的な手続きで選任することが求められており、会社の代表者が特定の労働者を指名することは認められておりません。
 しかし、実務上は、労働者が過半数代表者になりたがらず、決まらないケースがあります。その場合、36協定が締結できないため、(1)過半数代表者が重要な役割であること、(2)過半数代表者になったとしても使用者から不利益な扱いはしないことを伝え、たとえば会社の代表者がくじ引きで選任することを提案し、労働者が承諾したうえで行うという方法もあります。
 会社によっては、総務部の中から毎年選任することが慣例化していたりしますが、他の労働者が選任の過程を承諾していなければ無効となる可能性が高いでしょう。
労働者代表者の選任の無効判決の内容を教えて下さい。
1.2017年 長崎地裁
 労働者は、①本給と別に支払われていた各種手当を廃止し、ほぼ同額を固定残業代とする就業規則の改正、②1年単位の変形労働時間制を継続する労使協定の締結について、不当な労働者代表者が結んだ協定であるため無効と主張し、本来の時間外賃金の支払を求めた訴訟。
 この会社では、総務・管理部の社員が過半数代表者になるのが慣例となっていると反論しましたが、判決では「署名捺印者は、施行規則で定めた手続きで選ばれていない」とし、就業規則の改正及び変形労働時間制の効力は及ばないとし、労働者の主張を認めました。

2.2017年 京都地裁
 親睦組織の「友の会」の代表と締結した36協定が、「友の会は労働組合とは認められず、また、過半数代表者でもないないため、協定は無効」との判決を言い渡しました。

 両判決ともに、労働者が未払の時間外賃金を求めた訴訟で、労働者が勝訴しています。「1」の訴訟では、会社が就業規則を不利益変更しようとするときの手続きで、労働者の「個別同意」が得られるならいいでしょうが、実務上は就業規則の不利益変更の際に労働者全員から個別同意を得ることはほぼ不可能です。反対する労働者が少なからずいます。その場合には、不利益変更に社会的な合理性があれば強行突破するしかありませんが、法令に則った過半数代表者の選任プロセスだったら結果は違っていたのかもしれません。
 「2」の訴訟では、過半数労働者の選任プロセスが法令に則っていたとしても未払の時間外賃金の支払義務は生じていたと考えられるため、結果は同じだったと思います。