【法人税】矯正治療代を分割で受け取る場合の収入計上時期

2017年08月12日

税法相談事例

 矯正治療を専門にしている歯科医師の方からの相談です。

 矯正治療は数十万~数百万円かかる高額な治療であり、また、治療に係る期間も2年以上かかるのが通常です。

 矯正治療代は、全額を一括で契約時に支払ってくれる患者さんもいますが、大半は「分割払い」を選択するようです。

 今回の歯科医師の方の決算書を見ると「売掛金」が数千万円計上されていました。たとえば、矯正治療代 120万円(24回払い)の場合、
 ●矯正装置の装着時  売掛金/売上 120万円
 ●分割金の受取り時  現金/売掛金  5万円
という会計処理をされているのでしょう。いわゆる発生基準でしょうか。

 税務のプロである税理士からすると、(1)矯正装置の装着代が120万円で、装着後の毎月の経過治療代(基本料)を別途収受するのであれば、分割で矯正装置を販売したということで上記の会計処理は理解できるが、120万円の中には装着後の経過治療代(基本料)を含んでおり、経過治療時に別途請求しないことが通常であり、その部分は役務提供が完了していないにもかかわらず収入として先行して計上する必要があるのか、(2)経過治療代(基本料)を含む代金であるという前提の場合、分割払いで現金を受け取っておらず、担税力がないにも関わらず課税対象にしている、という点で上記の会計処理は非常に違和感を感じます。

矯正治療に係る収入を分割で受け取る場合、受け取る都度売上に計上するという「現金基準」で会計処理は認められないでしょうか
 矯正治療に係る収入の計上時期については、国税庁の質疑応答事例に取扱いが示されています。
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歯列矯正料の収入すべき時期
【照会要旨】
 歯列矯正には通常数年の治療期間を必要としますが、歯科医師が歯列矯正治療を行う場合には、矯正装置の代金及び装着料のほか、その矯正治療の全期間を通ずる基本料金としての性質を有する報酬(以下「基本料」といいます。)を、治療の開始当初において患者に請求し、一括受領している事例が少なくありません。
 基本料及び矯正料(以下「基本料等」といいます。)については、その収入計上時期についてどのように取り扱うべきですか。

【回答要旨】
 基本料等の収入計上時期については、歯科医師と患者の契約の実態に応じ、次のとおりとなります。
1 矯正装置の装着など一定の役務の提供を行った時に基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額についてその一定の役務の提供を了した日の収入金額とします。
2 期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて、所定の基本料等を請求し受領することとしている場合には、その期間が経過した日又はその役務の提供を了した日の収入金額とします。
3 1及び2以外の場合はそれぞれ次によります。
イ 支払日が定められている場合には、その支払日とします。
ロ 支払日が定められていない場合には、その支払を受けた日(請求があった時に支払うべきものとされている場合には、その請求の日)とします。
ハ ただし、イ及びロのうち、支払日が矯正治療を完了した日後とされているものについては、矯正治療を完了した日とします。
【関係法令通達】
 所得税法第36条、所得税基本通達36-8
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 まず、矯正装置の装着時に、基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額を収入金額しなければなりません。判例では「前受金」として期間按分して収入計上する方法は否認されています。

 次に、期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて、基本料等を請求し受領することとしている場合には、その期間が経過した日又はその役務の提供を了した日の収入金額とすることとされています。治療の程度に応じて請求するということはあまりないのではないでしょうか。

 実務上一番多いのが、その次の「1及び2以外の場合」でしょう。
 この場合、(1)支払日が定められている場合には、その支払日、(2)支払日が定められていない場合には、その支払を受けた日に収入計上することができます。いずれも「現金基準」となります。
 ただし、支払日が矯正治療を完了した日後となるものは、矯正治療を完了した日に収入計上しなければならない点は注意が必要です。

 ご質問のように矯正治療代120万円(24回分割払い)の場合、歯科医師と患者の契約の実態を把握したうえで、実際に受領した金額を売上計上するという「現金基準」も認められます。