新聞社からの取材ー逆養老保険の名義変更短期収束プランを名古屋国税局が脱税認定

2015年01月15日

お知らせ

 法人で従業員の退職金の積立てとして養老保険を活用することがあります。満期受取人を法人、死亡保険金を従業員の家族にし、支払う保険料の2分の1は福利厚生費として経費に計上することができます。いわゆるハーフタックスプランというものです。保険料の2分の1が経費になり、法人税の節税にもなります。

 ところが、世の中には「逆養老保険」というものが節税効果があるとして一時期盛んに販売されました。満期受取人を役員、死亡保険金の受取人を法人とするものです。一般的な養老保険の受取人パターンを逆にしていることから逆養老保険といい、役員を被保険者として加入するケースが多いです。逆養老保険は、支払った保険料の2分の1は福利厚生費として経費になり、また残り2分の1も給与課税されますが経費になります。つまり、保険料の全額が経費になるということです。
 これまで逆養老保険では、例えば法人で保険料を2億円支払った後に満期を迎え、役員個人に満期保険金2億円が支払われた場合の個人の一時所得の計算が問題となり、最高裁まで争われ、納税者敗訴で決着しました。納税者の主張は、2億円受け取ったが、保険料も法人で2億円支払っているので、一時所得はゼロだという主張です。この論点は決着しており、受け取った満期保険金2億円から控除できるのは給与課税された1億円に限るとされ、所得税の課税が行われます。

 新聞社から取材を受けたのは、逆養老保険で途中で契約者を役員に変更するという合わせ技のスキームです。このスキームは、平成27年1月14日の新聞でも記事になりましたが、名古屋国税局で脱税スキームとして摘発されました。

 新聞ではどのようなスキームだったのか詳細は記されていませんでしたが、次のようなスキームになっています。保険料を法人で支払った後、解約返戻金は個人で受け取ることができるという、法人の節税と個人財産の形成を目的としていました。
(1)法人で役員を被保険者として逆養老保険に加入。支払保険料の2分の1は福利厚生費、残り2分の1は給与とし、つまり保険料の全額を損金に計上
(2)解約返戻率が高くなった時点で逆養老保険を払済保険にする
(3)逆養老保険の契約者を役員に変更する
(4)逆養老保険を解約して解約返戻金を個人が受け取る
というものです。

 このスキームの1つのポイントは、上記(2)で払済保険にしたときに解約返戻金相当額を雑収入に計上する必要があるかという点です。
 払済保険の税務上の取扱いは、次のとおりです。
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<法基通9-3-7の2>
 法人が既に加入している生命保険をいわゆる払済保険に変更した場合には、原則として、その変更時における解約返戻金相当額とその保険契約により資産に計上している保険料の額(以下9-3-7の2において「資産計上額」という。)との差額を、その変更した日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。ただし、既に加入している生命保険の保険料の全額(傷害特約等に係る保険料の額を除く。)が役員又は使用人に対する給与となる場合は、この限りでない 。
(注)
1 養老保険、終身保険及び年金保険(定期保険特約が付加されていないものに限る。)から同種類の払済保険に変更した場合に、本文の取扱いを適用せずに、既往の資産計上額を保険事故の発生又は解約失効等により契約が終了するまで計上しているときは、これを認める。
2 本文の解約返戻金相当額については、その払済保険へ変更した時点において当該変更後の保険と同一内容の保険に加入して保険期間の全部の保険料を一時払いしたものとして、9-3-4から9-3-6までの例により処理するものとする。
3 払済保険が復旧された場合には、払済保険に変更した時点で益金の額又は損金の額に算入した金額を復旧した日の属する事業年度の損金の額又は益金の額に、また、払済保険に変更した後に損金の額に算入した金額は復旧した日の属する事業年度の益金の額に算入する。
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 逆養老保険を払済保険とした場合、(注)1により解約返戻金相当額を雑収入に計上する必要はなく、そのため、契約者を役員に変更した場合も役員が法人から解約返戻金相当額で買取る必要もなく、税金の課税を受けないとして大手生命保険会社の営業マンで販売していた者がいるようです。

 しかし、生命保険について知識のある税理士であれば、解約返戻金相当額の価値のある生命保険契約を法人から個人に変更する際に対価の授受をするようアドバイスします。名古屋国税局も法人で雑収入を計上しなかったことを脱税行為と認定したようです。

 生命保険会社の営業マンも税務の取扱いに精通しているわけではないですし、保険を販売することを優先させ、税務の取扱いを正しく説明していないケースもあります。今回の逆養老保険の名義変更スキームはまだ氷山の一角であると思われます。

 生命保険を節税対策として活用する企業は多いですが、税務の取扱いが複雑ですので、顧問税理士に課税上の取扱いを確認した方がよいでしょう。