【会社法】属人的株式の活用ー代表者が病気により判断能力が喪失し議決権行使できない場合

2015年10月25日

税法相談事例

 普段、経営者の方とお会いし経営戦略を話ししていますが、経営者に万が一のことが生じた場合の対応を話しすることはほとんどありませんでした。経営者も「生涯現役だ」という方もいます。

 しかし、先日、経営者の方が病気で意識不明の状態になり、いまは少し回復されましたが、まだ会社に復帰できる状態ではなく、経営の意思判断ができる状態でもありません。

 この会社の株主及び持株割合は、社長60%、A(取締役)20%、B(取締役)20%です。社長の議決権を行使ができないと過半数に達しません。中小企業では、社長が過半数の株式を持っているのがほとんどでしょう。もちろん社長が奥さんに議決権行使の委任をすることができればいいのかもしれませんが、意識不明の状態であれば委任することもできず、また、奥さんは会社経営に一切携わっていないため、議決権行使も困難であることが考えられます。

 そこで、この問題の解決案を提案することにしました。まず最初に考えたのが社長の持株を無議決権化することです。社長の株式を議決権のない株式(種類株式)に変えることで、AとBで決議することができます。無議決権株式は実務上ポピュラーな制度ですが、(1)種類株式の発行に関して登記が必要であること、(2)謄本に種類株式の発行が記載され、対外的に知れ渡ってしまうこと、(3)社長が復帰したあと議決権を回復させるのにA、Bの承諾が必要となること、がネックになりました。

 業務提携している司法書士に相談したところ、「属人的株式」を設定することでこの問題をクリアできるだろうと回答をもらいました。

属人的株式とはどのような制度ですか。
 株式会社の株主は、株主平等の原則により、「議決権」「利益の配当」「残余財産の分配」について平等の権利を持つことが原則です。たとえば、議決権であれば、1株1個の議決権を持ち、300株を持っていれば議決権は300個、100株であれば100個となります。

 属人的株式は株主平等の原則の例外であり、「議決権」「利益の配当」「残余財産の分配」について株主ごとに異なる取扱いをすることができる株式(種類株式)です。

 たとえば、ある株主が「病気、事故、精神障害などにより判断能力が喪失した場合、行方不明の場合、その他株主総会に出席して議決権を行使できない場合」の状態に限り、株主Bの有する株式1株につき3個の議決権を有する、などと設定することができます。

●現状<x社>
 株主A  600株(議決権600個)
 株主B  200株(議決権200個)
 株主C  200株(議決権200個)

●属人的株式の設定後
 株主A  600株(議決権600個)
 株主B  200株(議決権600個)
 株主C  200株(議決権200個)
 
 この状態でれば、株主B、Cで普通決議は行うことが可能になります。

属人的株式を設定する手順を教えて下さい
属人的株式の設定は、定款の変更が必要となり、総株主の2分の1以上の出席、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です。実務上は株主全員の同意を得ておくことが望ましく、敵対的株主の議決権割合を相対的に低下させるために属人的株主を設定した行為が否認された事例があります。
 また、属人的株式は他の種類株式と異なり、登記する必要がないため、対外的に知れ渡ることがないこともメリットです。
属人的株式は使用例を教えて下さい
 今回の事例のように経営者が議決権行使できない状態になったときを会社の危機を救う「ヒーロー株式」があります。経営者が信頼できる第三者にヒーロー株式を1株譲渡しておけば、経営者が万が一の状態になってもヒーロー株式の議決権が増加し、会社を救ってくれます。

 また、それ以外に使用方法としては事業承継の際に使用することができます。
 経営者から後継者に持株を移転し、会社の運営を任せたいと思っても、株価が高額で一度に後継者に渡せない場合があります。この場合、後継者が買取れる金額分の株式について、議決権が増加する「VIP株式」にすることで、後継者だけの議決権で会社経営ができるようになります。